Pure Digital Audio

デジタルオーディオ、ホーンスピーカー、真空管アンプによるピュアオーディオシステム

DAI回路の功罪: デジタルなのに信号ケーブルなどを変えて音が変わる理由

今回の要点は、

  デジタルオーディオなのにケーブルを変えたり電源を変えたりといったアナログ的な変更が
  音質を変える理由の説明


です。ネットで調べてもこれを明確に説明する記事は見つからないようですね。(もし有ったら教えて下さい。)

(1)一般的なデジタルオーディオの音質変化に対する理解

デジタルオーディオの音質変化についての意見をネットで検索すると、

  ●デジタルでデータを伝送している限り、絶対に音は変わらない
  ●デジタルなのに音が変わるなんて言うやつは詐欺師だ

という感じが多い。僕も基本的にデジタルデータの伝送で音が変わるなんて在ってはいけないことだと思っている。だって、

  0、1の情報をやり取りしているだけで、時間的な要素はそこにはないんだから、音が変わるわけないでしょう?

と考えるのが正統だ。この手の正当なデジタル屋さんをここでは Aさん と呼ぶことにしよう。


(2)ところが実際にいろいろ実験してみると、デジタルオーディオでも

  ●SPDIFケーブルを変えると音が変わる
  ●ネットワークケーブルを変えると音が変わる
  ●メモリーカードやHDDを変えると音が変わる
  ●NASの電源を変えると音が変わる

など、(1)では説明できないことが山ほどある。

この手の不思議な現象に疑問を持つユーザーのことをここでは Bさん と呼ぶことにしよう。

ここでは、デジタルオーディオでの音質の悪化がジッター(音楽波形の時間的揺らぎ)によるものであることは、前提として理解できているとして話を進める。(この辺の解説は判りやすい情報がたくさんありますからそちらを見てください) 


(3)話を単純にするために、シンプルなCDオーディオシステムで考える。

CDオーディオシステム

上図の様なシステムで、どこで何が悪化し、それがどうやって伝染して最終的にデジタルオーディオの音質悪化に繋がるのか考える。

CDトランスポートが音楽用デジタルデータであるSPDIF信号を出すが、それにはいろいろな原因でデータの波形の揺らぎが乗っかっている。例えばモーターの回転ムラもあるだろうし、モーターによる電源ノイズで電子回路が揺さぶられてそれが波形を乱すのもあるだろう。良いCDトランスポートというのはその波形の揺らぎが少ない物が良いという事になる。良いものを手に入れたいためにみなさん場合によっては百万円以上出したりしているわけだ。

ここで、Aさん曰く、
『SPDIF波形が乱れるのは判るけど、デジタルデータとしてエラーになっているわけではないんだから、そんなの音質に関係ないでしょう?DAI回路が音楽再生の時間軸を決めているんだから、それさえ乱れなければ音は悪くはならない!そんなものに100万円も出すなんて馬鹿だ!詐欺商法だ!』

Bさん曰く、
『そんなこと言ったって音が違うんだからしょうがないでしょう。SPDIF信号が綺麗になれば音は良くなるに決まっている。価値の判らないやつこそ馬鹿だ。フン。』

さて、どちらが正しいんでしょうか?

基本的な理論としてはAさんが正しく聞こえると思う。DAI回路はSPDIF信号に波形の乱れが有ったとしてもそれから正確なデジタルデータを取り出してDACに与えるのが仕事だから、CDトランスポートがどんなに汚いSPDIFを出したってデータエラーにならない限り ”音質は変わらないはず” 。ましてや、DAIは正確なXTALを発信源としているのだから、耳で聴き比べて判るようなジッターがオーディオ信号に乗るはずがない。Aさんのいう事が正しく聞こえる。

さて、それは本当でしょうか?


(4)ここでDAI回路の中身を見てみると、こんな感じ。

PLL.gif

PLL and Clock Recevery 回路が受けたSPDIF信号から、DACチップを働かせるためのI2S信号を作っている。Digital Audio Interface と書いてある部分がI2S信号。それがDACチップを動作させ、音の再生の時間軸もこの信号が決めている。

実は、PLL and Clock Recevery 回路がすごく重要な回路である。
この回路が外から来るSPDIF信号をきちんと捉えてデータエラーが起きないように読み込み、そこで得たデジタルデータをDACチップへ渡す橋渡しの仕事をしている。当然ながら外から来るSPDIF信号と自分が持っているクロック発振器の周波数や位相は同じではないから、何らかの”合わせこみ”の作業が必要になる。

その合わせこみの作業をするのがPLL回路だ。

ここで、Aさん曰く

『外から来るデータを正しく読むためには合わせこみは必要だから当然だ。そこで合わせこむんだから何も問題はないだろう。』

確かに”SPDIF信号を正しく読む”という意味ではPLL回路は完ぺきな仕事をしてくれる。
でもその結果、もう一つ余計な置き土産を残す。

元々のXTALの発信回路は正確に乱れなく発信していて、それを使ってDACチップのI2S信号を作っていれば正確な音楽信号が作れる。だがこのPLLを使って作ったI2S信号は外部から来るSPDIF信号の乱れの影響を受けてしまう。

もちろんその影響がなるべく無いようにするのが回路設計者の腕の見せ所だが、まったくゼロにするのは難しい。
汚れたSPDIF信号を正確に受け取るには受け取るためのクロックを大きくずらさないといけない。でもそうすると出力するI2S信号が乱れてしまう。

要するに、DAI回路はそもそもの成り立ちに矛盾がある回路なのだ。

DAIの矛盾点

一般的にDAI回路のスペックを見ると、クロックの安定度が XX psec なんて書いてある。それだけ見ると”耳では判別不可能だよな”と思うが、原理的に入力される信号のジッターが多ければ出力されるジッターも多くなるはずだ。だが、そういう事には一切触れずにジッター値を書いてあるところが素敵だ。下図はWM8804のスペックだが、”Intrinsic Periodic Jitter : 内在する周期的ジッター” が50psec だそうだから、外部から周期的でない信号が来たらいったいいくらのジッターが乗るのかは全く不明。

WM8804-jitter.gif

ここまでは回路技術者なら理解していることだと思う。


(5)DAI回路の功罪について

DAI回路の功罪として、

  ”DAI内部にあるPLL回路がSPDIF信号のアナログ的な波形の汚れを吸収してしっかりデータを読み込もうとする作業が、
  結果としてSPDIF信号の汚れ量に比例して、I2S信号のジッターを悪く確定させてしまう。”

という事になる。

僕がここで重要だと思うのは2点、

  ①DAIは、SPDIF信号を正確に受け取るために、SPDIF信号のジッターをI2Sに伝染させてしまう。
  
  ②汚染の量はSPDIF信号の汚れに比例する。

特に②があまり直感的に理解されていないのではないかと思う。(僕はそうだった)

別の言い方をすると、”DAI回路は入力されたSPDIF信号のアナログ的な汚れを、出力するI2S信号のジッターとして確定させてしまう。”という事になる。

  要するにDAI回路は見事な 『波形汚れ to ジッター 変換器』 であると言える。


(6)さて本題の結論だが、

  例えばSPDIFケーブルを変えると、
  当然ながらSPDIF信号の汚れの量が変わるので、
  その結果、I2S信号のジッター量が変化し音質が変化する

という事になる。デジタルなのにSPDIFケーブルを変えて音が変わる理由が説明できたと思う。

当然ながらケーブルだけではなく、SPDIF信号の波形を変える様な要素はすべて音質に影響することになる。
こういう理解が進むと、デジタルオーディオとはいっても、すべてのアナログ的要素が音質に影響することがわかるし、実際いろいろやってみると音質が変わるから、理論的に合っているね。

  スピーカーによる空気振動がケーブルに影響して音が変わるってことも十分ありそうだ。


(7)デジタルオーディオの音質改善策としては4種類ある。

デジタル情報として”1”、”0”をやり取りしているだけなら情報が変化することは断じてない。
しかし、実際にデータを伝送している信号(例えばSPDIF)を、PLL回路を使って受け取った途端に、信号波形のアナログ成分がPLLを通じてジッターとしてDACチップに影響する。

今までここまでの認識はなかったのではないか?

結果、デジタルオーディオの音質改善策としては

  (1)デジタルデータ供給元(例えばCDトランスポート)のクオリティーを上げ、SPDIF信号のクオリティーを上げる
  (2)PLL回路が悪影響を受けにくい波形を伝送してくれるケーブルなどを選ぶ
  (3)DAI回路のPLLを改善し、入力波形の汚れが有ってもジッターに確定させないような回路にする
  (4)そもそもPLLが不要(ないしは効きを弱くする)にする。(ワードクロックによる機器間の同期伝送)

僕は、根本対策としては(3)か(4)しか無いと思う。

あー、すっきりした。:-)


  1. 2015/11/23(月) 14:29:45|
  2. システム解説
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
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コメント

ともさん
こんばんは。質問ありがとうございます。
まず高精度クリスタルを使う件ですが、いくらXTALを高精度にしてもそれより桁数がいくつも違うようなジッターを持つPLLですからあまり意味がないと思います。もちろんすごく良いPLLもあるでしょうから、その場合は効果あるのかもしれませんが、まずは良いPLLにすることが前提ですね。今後いろいろ実験していきたいと思っているのですが、現状普通に手に入るDAIのICは全然だめだと思います。高級DACに入っているPLLは各メーカーが必死になって開発したものですので、きっと素晴らしいのだと思います。最近聞いたSONYのDAS-703ESは素晴らしい音です。DAIは2段のPLLになっているそうです。私は192KHzを追いかけるより、高度なDAIを追いかけた方が音が良くなると確信しています。基本的にDAC(DAI)のクロックをすべての基準にしてシステムを動かすのが良いというのが通説の様ですね。コンシューマ用ではあまり実現されていないですが、ワードクロックをDAC(DAI)から出してくれる物もいくつかあるようです。私はこれからそっち系(DAIをマスターにする、PLLをなるべく使わない)を模索しようと思っています。DAIはデータを正しく読むことに必死なので、そのあとがどうなろうと知ったことではないというのが正しいと思います。”波形の乱れ”という不確定なアナログ的要素を”時間軸上のジッター”に的確に変換する素晴らしい?機能を持った回路ですよね。:-) 良いDAIを探さないとすべてがおじゃんだと思います。
  1. 2015/11/25(水) 23:59:43 |
  2. URL |
  3. Cocoパパ #mQop/nM.
  4. [ 編集 ]

cocoパパさんこんばんは。
(4)pll clock recoveryの図で水晶のところを超高精度のクロックに交換する。できればバッテリードライブ。あるいはwordクロックを受けられるように改造するということはできないのですか?daiをスレイブでなくすることは原理上不可能なのですか?
違う角度から同じ質問をすると、daiはどのようにジッターを確定させるとお考えですか?
  1. 2015/11/25(水) 21:42:17 |
  2. URL |
  3. とも #-
  4. [ 編集 ]

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Author:cocoパパ
 30年前の本当に楽しかったオーディオを取り戻しませんか?自分でいろいろなことをやってみて、どんどん良い音を探していた楽しいオーディオを。最近は色々な技術がメーカーのノウハウになってしまって、ちっともオーディオがたのしくありません。自分で作り上げられる楽しいオーディオを取り戻しましょう。


また、
オーディオは総合技術・芸術だと思っています。スピーカー、アンプ、音源(PCやD/Aコンバータ)、電源、部屋、音楽など全てがうまく整って初めて良い音で鳴るようになります。一朝一夕に実現出来ることではありません。


つまりオーディオほどハードルの高い趣味は無いと思います。車と違い、いくらお金を出しても買ったとたんに良い音がでることはまずありません。いかに使いこなすかは買った人ががんばるしかありません。そんな事に役に立つノウハウを書いていけたらと思っています。
  
ここでは、私が知ったいろいろなノウハウを公開したいと思っています。

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